獣医師国家試験体験記

  

 平成14年3月7〜8日。第53回獣医師国家試験が日本で行われた。平成8年に獣医学部に入学し、順調にその階段を駆け上がっていればその日、晴れの舞台にあがることが出きたハズ・・・。これはその試練に臨んだ獣医師を志す とある一人の男の体験をつづった哀と勘当の記録である。。。


第一話(3月6日)

「出撃」
 試験会場へ向けて出発の日。場所は、福岡県は九州大学。国家試験会場は全国で3箇所(九州・東京・札幌)で、出身大学によって決まっており、西日本の大学はおおむね九大で受験することになっている。ウチの大学も九大が会場となっているが、はっきりいって遠い・・・。というか、近いのはY大学くらいなものか・・・? 北海道や東京が受験会場なのはまだ解るが、なぜ獣医学科の存在しない福岡は九大が受験会場になっているのかは不明である(やっぱ交通の便の良さですか・・・)。ま、とりあえずは遠いということなので、当然早めに出発しておかねばならない。ウチは代々、試験前日に出発してホテルへ泊まりこむことになっている(2日前から行く所もあるらしい?)。早朝、7時過ぎより大学最寄の駅に全員集合して出発である。研究室の後輩達も見送りにきており、激励をとばしたり、垂れ幕を広げたり、道中のお菓子をくれたりと、まさに戦場へ赴く兵士達を見送る光景さながらである。そう、今から我々は戦場へ行くのだ! そこでは誰も助けてくれない・・・。これまで己が身につけてきたもののみが頼れるもの・・・! と、まぁ、大げさだが、とりあえず出発。

 電車はほぼ1両貸切状態。車内では最後のあがきがおこなわれる。気のきく旅行係(ホテルや電車の予約をする)がサイレンスカーなる車両を予約してくれたおかげで車内はアナウンスが流れず静か! 閉鎖された静かな空間。勉強やおねんねには最適の環境である。オイラはとりあえずゴロを覚えていた。たかがゴロ、されどゴロ。受験生、最後はやっぱりゴロである。どんな複雑難解なものもゴロを覚えれば一発である(応用力はかなり少なくなるが)。なかにはどこかの漫画で聞いたことあるようなゴロから、各自が独自にあみだしたゴロまでさまざまである。その膨大なゴロの中から自分に必要なものだけを取捨選択してひたすら口ずさむ。まさに体(口)に覚えこませるのである。そうこうしているうちに、電車はとうとう博多へ到着・・・!

 博多駅から徒歩5分のホテルにチェックインを済ますと、とりあえず昼飯へ。博多といえば、ラーメン。福岡出身のオイラはいつでも食えるのだがとりあえず食いにいった。1件目は人が多く、しぶしぶ2件目へ。無論、とんこつラーメンを頼む。残念ながら、私の舌を満足させる味ではなかった・・・。やはり1件目がよかったか。昼飯を食ったらホテルで缶詰になって再び最後のアガキを行う。余裕のありそうな人は会場へ下見に行く人もいたが、オイラはそんなに「余裕ない派」なので缶詰。どうせ当日はみんなで移動するので、まぁ迷子にはならんだろう。とりあえず持ってきた激厚問題集を最初から超高速で読み直す。なんせ1500ページ以上もあるんでじっくり確認しているヒマなぞない。あ、なんか見たこと聞いたことあるな〜程度に記憶にとどめる。


「錯綜」
 国家試験前夜といえば、飛び交う情報である。例年、嵐のごとく情報が飛び交い、その情報(FAX)を壁にペタペタ貼りつけねばならない委員の人は眠れぬ夜を過ごすこととなる(らしい)。恐ろしいことに、この私も委員なのである。が、しかし、他人のために情報を提供している余裕などないのだ。そんな迷える子羊達に一筋の光明をもたらすのが、現在のこの発達したグローバルメディアネット! そう、今年の国家試験対策委員会はネットを最大限に利用して情報のやり取りを行っていたのである。その主力はメーリングリストと掲示板。どのように使うかは、ま、大体想像つくだろうから省く・・・。ようするに、1通のメールで情報を送れば、一瞬で全国に伝わるという便利な方法なわけ。この心強い武器を従え、いざ会議室に待機(しつつ勉強)!

 そこには既にいくつかの大学の委員の方々が。これまでメーリングリストでさんざんやりとりしてきたが、実際に顔を合わせるのはほとんど初めてである。軽く挨拶を交わし、ネットをつないでくれているY大のパソコン(Y大の好意により持ってきてくれた。ホテルでは頼んどけば特別につながせてくれるらしい)を固唾を飲んで見守る。コイツがつながらなければ、この会議室はただの部屋となってしまう。数十分後、無事つながり、小さな歓声があがる。早速、いくつかの情報が来た。いつも疑問に思うのだが、この情報の出所は何処よ? とりあえず、この日来たヤツはなんか北大が前日に行った画像診断の補講の内容らしい。試験前日まで補講かよっ! さすが、会場地元は余裕有り・・・。で、その情報の信頼性はいかがなものか? 「PDA」ほうほぅ、「フィラリア症」ふ〜ん、「横隔膜ヘルニア」なるほどね、・・・って、全部情報うんぬんの前に重要なヤツばかりだよっ!! となるのがオチである。今回●回目の受験となるベテランの先輩H氏に伺ったところ、「回ってくる情報って毎年同じやな・・・。アレもコレも去年も出る言うてカスりもせんかったわ」とのことです。

 その後、特に情報もなく・・・去年はホント、すさまじかったらしいが、今年はえらい静かだ・・・。なんにもネタがこないので、勉強をつづける。すると、どこからか出所不明の情報が・・・? 「牛の××病」・・・そのものすぎてあいまいなのか、ズバリなのかよーわからんが、とりあえず見なおしてみた。・・・さ〜て、もう夜中の12時だ。明日も早いし、もう寝よ。


第二話